『長彦と丸彦』7回目
「そうです。お金にかえておしまいなさい。またあとで、買いもどせばよろしいでしょう」
それで、すぐに話はきまりましたが、ただ[#「ましたが、ただ」は底本では「ましたが。ただ」]一つ、困ったことがありました。
その屋敷の庭のかたすみに、大きな梅(うめ)の木が一本ありました。その梅の木について、ふたりのお母さんが、亡くなる時、ふたりを枕(まくら)もとに呼んで、くれぐれもいい残したことがありました。
「あの梅の木は、とてもたいせつな木です。それですから、もしもよそへひき移るようなことがありましたら、あの木だけはかならず、ほかの人にたのまず、あなたたちふたりで、よく掘りおこして、枯れないようにして、持って行かなければいけません。これは、なくなったお父さんと私とふたりで、あなたたちに、くれぐれもいい残すことですから、忘れないようになさい」
その梅の木が、ちょうどいま、花を咲かせておりました。それを掘りおこして、あらたな小さい家の庭へもっていくのは、なんだかかわいそうでたまりませんでした。しかし、両親からいい残されたことですから、守らねばなりませんでした。
「だいじょうぶです。私が掘りおこしてみましょう」
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